論文の要旨
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Piel教授の研究グループは、カイメンTheonella swinhoeiのメタゲノム解析により、カイメン共生バクテリア由来のポリセオナミド生合成遺伝子を発見した。ポリセオナミドは、リボソームにより前駆体ペプチドが合成された後、ラジカルSAM酵素、SAM依存型メチル基転移酵素、Fe(II)/α-ケトグルタル酸酸化還元酵素、脱水酵素など、多数の翻訳後修飾を受けて生合成されることが判明した。本研究結果は、カイメン由来の多くの化合物が共生微生物によって生合成される、という仮説を支持するものであり、稀な生化学を生み出す共生微生物の価値を高めた。このように様々な修飾を施すことが可能なリボソームマシナリーを利用することで、新たな構造や機能を持ったペプチドやタンパク質の人工創製が可能になるだろう。(人羅)
ポリセオナミドとは
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ポリセオナミドは、多数の非タンパク質構成アミノ酸を含む48アミノ酸残基から構成される巨大ペプチドである。D-, L-アミノ酸が交互に配列した1次構造を持ち、また、β-へリックス構造をとることで、脂質二重膜中でイオンチャネルを形成する(下図)。1994年に当研究室でカイメンTheonella swinhoeiより細胞毒性物質として単離され、2005年に構造決定が達成された。2010年には、老木らによりポリセオナミドBのイオンチャネルとしての機能が解明され、濱田らにより溶液中の3次元構造が明らかにされた。また、同年、井上らによる全合成が報告されている。その複雑な化学構造から、ポリセオナミドは非リボソームペプチド合成酵素によって生合成されるであろう、と予想する研究者が多かった。
(人羅)
「化学と生物」49巻11号(2011年)より抜粋